旧来から最近に至る木造建築物における様々な技術は、地震時・火災時における安全性や長期の耐久性の実現に寄与するものです。
ここでは、他の構造と同等の性能を確保しうる木造建築物の特性を紹介します。
15.木造建築は地球環境にやさしいのです。
森林資源の豊かなわが国においては、木材の利用や木造建築物の建設を一層促進することにより、二酸化炭素排出量の削減など、地球の環境にやさしい社会の形成に貢献できると考えられます。
★木造建築は他の構造より、建設・製造時のCO2排出量が少なくて済みます。
建築工事に係るCO2排出量については、住宅を例にみると、木造が鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)の6割程度となっています。(図)
また、建設・製造時のCO2排出量においては、建築資材の輸送距離も重要です。たとえば、国産の原木をしようすると、海外輸入(ロシア)の原木を使用した場合の35%程度に抑えられることが分かります。
★木材の利用により、炭素を固定することができます。
伐採した木を木材として利用すれば、炭素を固定しておくことができます。
図は、植林して50年後の1haのスギ造林地の幹材に固定されている炭素量が約140tであり、それを伐採、製材して住宅などの部材として使用したとしても、その57%程度の約80tは固定されたままで排出されないことを示しています。
★木材利用と樹木の計画的伐採が、森林管理とCO2削減の面から必要です。
樹木が吸収するCO2は、樹齢とともに増加するものの、その後は減少していきます。(図)
図では、樹木が吸収できるCO2は、7~9齢級で最大値をとり、その後は減少していくことが分かります。こうしたことから、樹木は計画的に伐採して、木材として利用していくことが、森林管理に加えてCO2削減の効果の面からも必要となります。
★木材は持続可能な資源であるといえます。
鉄や石油などの埋蔵資源が掘り出して使用してしまえばなくなってしまう有限なものであるのに対し、木質資源(木材、材木)は伐採して使用しても、その後に新しい苗木を植えておけば、30~50年で再び材料やエネルギー源などの資源として使えるように成長してくれます。
林野庁の資料によれば、平成19~25年にかけて樹木の蓄積に関する増加量の平均値は、国内で年間5,000万㎡(丸太換算)以上であり、国内での国産材受給量2,500万㎡を上回っています。
16.木造建築には、他の構造と同じように火災安全性があります。
木造で耐火構造とする部材が開発・実用化され、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と同等の火災安全性が確保できるようになっています。
また、ゆっくり燃える木の特性を生かした木造の準耐火構造技術の開発・普及が木造建築の実現拡大に寄与しています。
★3階建以下に適用できる木造準耐火構造の技術開発・普及が進んでいます。
木造は熱伝導率が低く、燃えると表面に空洞を持った炭化層を形成します。炭化層は断熱性が高く、熱の侵入を抑制します。
この性質を生かし、木材の表面から一定深さの燃えしろを設けて残りの断面積で構造計算を行い、火災継続中にその構造が倒壊しないようにするのが「燃えしろ設計」です。
それにより評価された木造の準耐火構造などが告示に示されています。
木造には、要求される防耐火性能に効率よく対応できる設計法が用意されているといえます。
17.木造建築には、他の構造と同じように耐震性があります。
法的に定められている耐震性能レベルは構造種別に関わらず同じであり、基準にしたがって建てられた建築物は、木造でも鉄筋コンクリート造や鉄骨造と同等の耐震性能を有しています。
★建築基準法で定められている耐震性能レベルは構造種別に関わらず同じです。
法的にみると、建築基準法で定めている耐震性能レベルは構造種別に関わらず同じです。
木造だからといって、基準法で要求している耐震性能レベルを満たしていないなどということはありません。
建て主や設計者が設定する目標性能が同じであれば、地震の耐え方に違いがあるものの、構造種別の違いによる耐震性能レベルの違いはありません。
建物に作用する地震力は建物の重量に比例します。
建物重量は用途や規模によって変わりますが、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造の床単位面積当たりの重量比は概ね、木造:鉄筋造:鉄筋コンクリート造=1:2:4になります。
したがって、木造は鉄筋コンクリート造の1/4程度に見合う重量を支えればよく、より耐力の低い木造の壁構造であっても、適量で耐震性とプランニングを両立させることが可能であると言えます。
たとえば、壁厚15㎝の鉄筋コンクリート造の構造壁と構造用合板を両面張りした木造の構造壁の地震に耐える力を単純に比べれば、鉄筋コンクリート造の構造壁の方が数倍も耐える力は高くなります。
しかし大切なのは、木造でも鉄筋コンクリート造でも、建物に作用する地震力に対し必要な構造壁を設計することです。
★新耐震以降、大震災時の木造建築の全壊率は他構造と比べて大きくありません。
阪神大震災(兵庫県南部地震)における建築年代の区分ごとの木造、鉄筋コンクリート(RC)造、鉄骨(S)造、軽量鉄骨(S)造の被害率を図に示します。
この図から、大震災発生時における耐震基準(1981年新耐震基準)を満たした木造建築の全壊率は、他構造のそれに比べて顕著に劣っていないと言えます。
2016年に発生した熊本地震でも同様の傾向があることが分かっています。
★木造は他の構造に比べて耐震性能を効率よく上げることができます。
建築基準法の要求レベルを超えた性能、例えば、官庁施設の総合耐震計画基準におけるⅠ・Ⅱ類、住宅品確法における耐震等級2・3を目標性能とした設計を行う場合、構造種別によって性能を上げるための方法やコストには、以下のような違いがあります。
鉄筋コンクリート造では、柱梁の断面や鉄筋、構造壁の壁厚や壁量等、構造体量の直接的な増大が必要になり、コストアップにつながりやすい傾向があります。
特に、鉄筋コンクリート造は建物重量に占める構造体の割合が大きいため、部材が大きくなると支えるべき建物重量も増えてしまうという傾向にあり、耐震性能を上げにくくなる場合があります。
鉄骨造は、ラーメン構造でもブレース構造でも部材断面を大きくすることで耐震性能を向上できますが、鋼材量の増大がそのまま躯体コストのアップにつながりやすい傾向があります。
木造は、一般的には構造壁と屋根・床面積の体力強化と壁長の増大で対応しますが、建物重量に占める構造体の割合が小さいため、効率よく耐震性能を上げやすいことに加え、耐震性能向上のための様々な手法があります。
たとえば、面材に厚物構造用合板を使い釘の径と本数を増やして耐力壁と水平構面の性能を高めることで、壁長を増やさずに耐震性能向上を実現することができます。
このように多様な対処法を選択できる木造は、他の構造に比べて、耐震性能向上に係るコスト優位性の高い構造であるといえます。
★木造は既存建物の耐震性能を高めるための工事を比較的楽に行えます。
木造における耐震性能の高めやすさは、既存建物の改修や増築における木造の有効性につながります。
木造では既存建物の劣化部分の補修や交換が比較的容易であり、多様な方法により地震に耐える力を高くすることができ、例えば耐力壁の仕様変更程度でも効果があります。
ただし、木造でも基礎だけは鉄筋コンクリート造でつくられていますので、基礎の劣化や耐力不足が著しい場合は補強工事が大掛かりになります。
一方、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の既存建物の改修では大掛かりな補強設計や工事が必要になる場合が多くあり、コンクリートや鋼材等の構造材自体の劣化が著しい場合は、改修自体が困難な場合もあります。
★住宅品確法が示している耐震性能レベル
建築基準法よりも高い耐震性能の指標となる基準に住宅品確法の「住宅性能表示」における基準があります。
住宅性能表示における耐震性能レベルについては、表のように木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造などの構造樹別に関係なく、3段階の耐震等級が定められています。
木造でも耐震等級3を確保すれば、災害発生時に避難所となる学校や消防署といった重要施設に要求される耐震性能と同等の性能を持たせることができます。
18.木造建築は長持ちします。
木造建築物の躯体を構成する木材は、腐朽、シロアリなどの生物劣化や、雨水や太陽光等による気象劣化から木材を守ることができれば、木造建築物が長持ちすることは、法隆寺などの歴史的建築物が証明しています。
また、現代の木造住宅においては、住環境を担保しつつも100年以上の耐久性を持たせる技術が確立されています。
★木材の腐朽対策には、栄養分と水分を制御することが有効です。
- 栄養分を制御する
木材が腐朽菌の栄養分とならないように、木材を防腐薬剤で処理することが効果的です。
木材の含水率が高くなりやすい土台などの地際付近、風呂場や台所の水回り、窓やドアの開口部周辺に使われる木材部分は、防腐薬剤で表面処理することが有効です。
- 水分を制御する
腐朽対策として水分を制御するために、木材を常に乾燥状態に保つため建築物中に水が浸入しないようにすること、侵入した場合は建築物内で滞留しないように排出することが重要です。
そのためには以下のような対策が挙げられます。
①建築物に雨が掛からないように十分な長さの軒やケラバ、庇などを確保する。
➁地面からの水分を防ぐために基礎を高くしたりする。
➂壁体内に侵入した水分を排出するように通気工法の壁体にする。
★シロアリ対策では、防湿コンクリートや防蟻薬剤を塗布することが有効です。
一般的なイエシロアリやヤマトシロアリは地下から侵入してくるので、防蟻のためには、防湿コンクリートを打つこと、床下土壌と地面近くの木材部に防蟻薬剤を塗布しておくことが効果的です。
また、基礎周辺に犬走を設けたり、シロアリが好む断熱材を防蟻仕様のものを採用することも有効です。
★腐朽の4条件とは・・・
腐朽は、大気中に漂う腐朽菌が木材に付着し、腐朽菌が生育可能な状態になると生じます。
木材が腐朽する環境とは、水分、温度、酸素、栄養分の4条件が揃ったばあいであり、逆をいえばこれら条件の一つでも欠ければ腐朽しないといえます。
★木造でも構造躯体を100年程度もたせることができます。
木造住宅の耐久性を高めるための躯体の劣化対策技術が「住宅性能表示」において示されています。
図で示した最高等級である劣化対策等級3とすることで、3世代以上も構造躯体を維持することが可能になります。
しかし、劣化対策を施していても、経年により劣化は進行します。そのため、定期的な点検により、劣化の早期発見と劣化部位の補修を行うことで、さらに長期間使用することが可能となります。