新潟でリノベーション 自然素材の家ってなぜいいの? ①人への効果

今、自然素材で家を建てたいという方が増えてきています。

理由は、「住み心地がよさそう」「落ち着きそう」「身体に良さそう」などが挙げられます。

日本では、住宅の「躯体」(土台・柱・梁などの構造体)と「内装材」(床・壁・天井など)に、主に「木」が使われてきました。

新潟では、昔から自分で所有する山林があり、その山の木を伐採して天然乾燥し、その材料で家を建築することが一般的でした。

材料が手近にあったことも理由の一つでしょうが、長い間伝統的に使われて続けてきたのには、理由があるはずです。

そこで、自然素材の中の「木」について、林野庁の科学的データに基づき、家の材料として使われ続けてきた理由について検証していきたいと思います。

1.木材・木造建築の人への効果

木材あるいは木造建築物には、人のストレスを少なくする、疲れにくくするなど、生理的な効果・身体的な効果があることが科学的に明らかになってきました。

★木材の臭いで、心も体もリラックス

心理的な効果はもちろん、血圧を低下させるなど、身体もリラックスさせる作用を持つことが明らかになってきました。

樹木はそれぞれ樹種に固有な匂いを持っています。

まだ新しい木の家に入ると、木の匂いがいっぱいで何となく気持ちが落ち着くものです。

このような日本の木の家に多く使われているスギやヒノキなど針葉樹の臭いについて研究が進んでいます。

★スギチップの匂いの作用により血圧が低下したとの報告があります。

被験者に対し、20秒間の安静の後、90秒間スギチップの匂いを呈示し、血圧を計測しました。

その結果、吸入開始後収縮期血圧が低下し、開始後40~60秒で吸入前に比較して有意な低下を示しました。

血圧はストレスがかかると上昇することが知られています。

したがって血圧が低下したということは、スギの匂いにより体が「リラックス」したことを表していると解釈されてます。

★スギ材から揮発した匂いがストレスを抑制したとの報告があります。

スギ内装材を設置した部屋において計算課題を実施した際に、作業後のだ液中のアミラーゼの活性が低下する傾向にあったとの研究報告があります。(下図)

被験者に対し、スギ内装材を設置しない部屋と設置した部屋で、30分計算課題を実施し、だ液中のストレス指標となる物質(アミラーゼ)の活性を計測しました。

スギ材なしではアミラーゼが上昇、スギ材ありの場合にはアミラーゼは低下する傾向にありました。

アミラーゼは強いストレスを受けるほど活性が高くなると考えられています。

アミラーゼの低下は、計算課題によるストレスをスギ材から揮発した匂いが抑制したものと解釈されます。

2.木の匂いを嗅ぐと、免疫力がアップします。

人体の免疫系への働きかけが徐々に明らかになりつつあります。

風邪の予防などに木材の匂いを活かせるようになるかもしれません。

作用のしくみはまだ不明ですが、木材の匂いの成分が、ストレスを軽減し、免疫細胞の働きを向上させると考えられます。

心理的な効果はもちろん、血圧を低下させるなど、身体もリラックスさせる作用を持つことが明らかになってきました。

樹木はそれぞれ樹種に固有な匂いを持っています。

まだ新しい木の家に入ると、木の匂いがいっぱいで何となく気持ちが落ち着くものです。

このような日本の木の家に多く使われているスギやヒノキなど針葉樹の臭いについて研究が進んでいます。

★ヒノキの匂い成分がヒトの免疫細胞の働きを上昇させたとの報告があります。

免疫細胞のひとつとしてナチュラルキラー(NK)細胞と呼ばれる細胞があります。

ヒノキの匂い成分である精油が、このNK活性を上昇させた可能性がありとの報告があります。

ヒノキ材精油*を揮発させた室内に被験者を3日間宿泊滞在した前後のNK活性の変化を調べたところ、滞在前に比較して滞在後に有意に上昇していました。(下図左)

(*精油(せいゆ)またはエッセンシャルオイル(英語: essential oil)とは、植物から産出される揮発性の油で 、それぞれ特有の芳香を持ち、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)などによって植物から留出することができる 。―出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

また、滞在の前後で、ストレス指標である尿中ノルアドレナリンは有意に低下していました。(下図右)

ストレスが軽減し、そのことがNK活性の上昇につながったのではないかと考えられます。

3.木材は視覚的に効果があります。

木材は心理的な印象に影響すると共に、心拍などの生理面に影響することが明らかになりつつあります。

木材の外観は、一般に「木材色」「木目模様」「光沢」で特徴づけられます。

木材を内装に用いた部屋では、視覚効果で「暖かい」「自然な」印象を与えるだけでなく、血圧、心拍などの生理応答にも影響を及ぼすことが実証されています。

★生理応答や快適感などに影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。

【検証①】

木材率(全内装面に占める木材の面積比率)が自律神経系の生理応答や快適感などに影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。

広さや調度品が同じで木材率の異なる部屋において、血圧、心拍、脳血液動態などの生理応答の測定及び部屋の主観評価が行われました。

その結果、木材率が45%の部屋では心拍数が有意に増加し、木材率90%の部屋では収縮期血圧が有意に低下しました。

しかし、木材率0%の部屋では、これらの生理応答に変化は見られませんでした。

【検証➁】

天井・壁の、造作の梁や柱の配し方が異なる部屋において心拍の測定を行い、覚醒効果があるのかを検証した実験があります。

その実験では、標準の部屋(Standard)と比べて、梁や柱を配した部屋(Designed)では、梁や柱の視覚刺激で心拍数が増加していることが分かります。(下図)

そのことから、内装に木製の梁や柱を付加することで、覚醒効果があると言えます。

4.木材を内装や外装に用いた場合、人の印象に与える影響

「あたたかなイメージ」など良好な印象を与えることが、明らかになってきました。

戸建住宅の工法や外装によって、居住者の成熟度・対人関係・自信に関わる印象が変わります。

建築物の内外装に使われた木材の視覚的効果によって、「あたたかなイメージ」など良好な印象を与えることが明らかにされています。

★内装に木材を使うと「快適」などの印象を与える、という報告があります。

内装に木材を使用することにより「あたたかい」「明るい」「快適」などの良好な印象をあたえるという研究結果が、次の視覚的効果を評価した実験によりえられています。

木質化した事務所と木質化していない事務所の内部写真20枚を、説明なしに被験者に見せ、その写真を似ていると感じたもの毎にグループ分けさせた後、その理由や印象の聞き取りをしました。

聞き取りした内容をテキストマイニングおよび多次元尺度構成法によって分析・解析した結果が図になります。

図では、各写真や単語の位置が相互の関係性を表しています。

関係性が強いほど相互の距離が小さく、逆に関係性が弱いほどは離れて表現されます。

木質内装写真は「木材」という単語の近くに位置づけられるとともに、その周辺に「あたたかい」「友好的な」「明るい」「快適」「静か」など良好な印象につながる単語が位置づけられました。

これは、事務所の内装で木材の視覚的影響が好ましい印象をもたらすことを示唆しています。

5.木材は人の目を引き付けます。

木材の表面で光が複雑に反射して生まれる特有の照り(光沢)が、私たちの視線を引き付けるのです。

木材の表面には、無数の微細な溝が隙間なく並んでいます。

溝に当たった光は、鏡のように一様ではなく複雑に反射されるので、ギラツキの少ないまろやかな光沢を生み出します。

★「照りの移動」は本物の木材ならではの意匠です。

樹種によっては、材面を傾けながら、あるいは照明の向きを変えながら観察すると、明るく、照り(光沢)のある部位が動いて見える「照りの移動」が現れることがあります。

下左のトチノキやカエデによく見られる波状杢は、「照りの移動」を生じる木目の代表格です。

この柄を精巧に再現した印刷シートでもなかなか再現できない「照りの移動」は、本物の木材ならではの意匠と言えます。

★「照りの移動」に人の目が引き付けられます。

モノやコトが人目を引き付ける度合いを「誘目性」といい、それは見る人の注意や関心の向き加減に影響します。

木材は、高い誘目性があることが明らかにされています。

「波状杢柄を精巧に模した印刷シート」と「本当の波状杢が現れたカエデ材」を、照明の方位を変えながら連続撮影して動画化し、この動画を見た被験者の視線がどこに停留するかの検証を行いました。

照りの移動が生じないシートでは、停留点の分布がほとんど変わりませんが、カエデ材は縞模様の明暗の出現位置に合わせて停留点が移動しており、高い誘目性が示されています。

6.木材を塗装すると人目を引き付ける度合いが変わります。

木目模様のコントラストの大小が塗装によって変われば、人目を引き付ける度合い「誘目性」も変化します。

木製品への塗装の有無や塗装の種類により、木目模様の見え方やコントラストがかなり変わります。

コントラストが変わると誘目性も変化するので、塗装によって木材の誘目性をコントロールすることができると言えます。

★塗装で木目模様がくっきりするのはコントラストが協調されるからです。

木材に透明塗装を施すと、多くの場合、材面は暗くなりますが、木目模様はくっきりします。

これは、塗装により全体的に明度は下がりますが明暗の差が開くことと、彩度が上がって材面が濃くなるとともに濃淡の差が開くことで、木目模様のコントラストが大きくなって生じた現象と言えます。

★塗装により木材の誘目性が変化することが分かっています。

塗装によって木目模様のコントラストが変わると、木材の誘目性が変化することが分かっています。

色々な塗装法でコントラストを変えた木材を用意し、それを見る人の視線がどこにどのくらい集中するのかを検証しています。

その結果を表しているのが下の透かしモザイク図で、視線が集中した部分ほど透明性が高く、下地の木目模様が見えやすく表されています。

中央部の山形模様に視線が集中する傾向はA.B共通していますが、コントラストの大きいBでは周辺部にも多くの視線が集中しています。

このことは、塗装によって木材の誘目性が変化することを表しています。

7.木材の触りごこちがヒトに与える影響

木材の持つ独特の触りごこち(接触感)は、人体への生理的なストレスが少ないことが明らかになってきました。

木材は顕微鏡レベルで見ると、中空のパイプ状の組織が並列に配列したハニカム構造を持っており、このことが木材特有の接触感を生み出しています。

★木材への接触は、生理的ストレスを生じさせにくい、という報告があります。

血圧はストレスがかかると上昇することが知られています。

木材、および他材料への接触が血圧に及ぼす影響について調べたところ、木材は他材料と比べて、生理的なストレス状態を生じさせにくいとする研究結果が得られています。

アルミニウム、アクリルなどの人工物へ接触したとき材料が室温のときも血圧は上昇し、材料温度が高温あるいは低温のとき、血圧上昇はさらに大きくなりますが、木材への接触においては、室温での血圧上昇は小さく、低温時には血圧上昇をもたらしませんでした。

このような木材の性質は、人体が直接触れるような用途、たとえばフローリングや手すりなどに適していると言えます。

★木材の温冷感―触れても冷たさを感じにくい

温冷感は熱の伝えやすさ(熱伝導率)と密接な関係があることが知られています。

熱を伝えやすい(熱伝導率が高い)材料は、接触した瞬間に人体から多くの熱を奪うため冷たく感じます。

木材は、その内部に空隙を多く持ち、含まれる空気が熱の伝導を防ぐため、金属やガラスと比べてあまり冷たさを感じません。

同じ木質でも、針葉樹合板やパーティクルボードなどよりも、ヒノキ・スギなど針葉樹の方が、内部に含まれる空気が多いため、より冷たさを感じません。

8.木材の衝撃に対する特徴

木材は衝撃力が加わると、塑性や弾性の変形で衝撃エネルギーが消費されるため、衝撃力を緩和する効果がある材料といえます。

木材は多孔質の組織構造で、衝撃力が加わると組織がつぶれたり、たわんでまたもとに戻ったりします。

これらの性質を塑性あるいは弾性といいます。

この性質により、衝撃エネルギーは消費され、跳ね返ってくる力は衝撃力より弱くなります。

つまり、木材は衝撃力を緩和する効果があるといえます。

★木造床の構法によって、木材の衝撃緩和効果が変わります。

建物の木造床では、衝撃緩和効果は床板の樹種や厚さ、下地の材料、床組の工法によって異なります。

これを検証するため、特別養護老人ホームを対象としてアンケート調査が行われました。

それによると、床板の下に根太・二重床・その他を施工した「直貼り以外」の床では、転倒や転落による骨折事故が、床をコンクリートの上に「直貼り」した場合の約2/3に減っています。(下左図)

これは、根太組の床にすると、衝撃力が加わって床がたわみ、更に衝撃が緩和されるためと考えられます。

★衝撃緩和効果は、木造でもRC造でも、二重床や根太組のほうが高い。

実際の高齢者施設において、建物の構造・床組の工法・仕上材による衝撃緩和効果の違いを比較検証した実験があります。

この実験では、JIS A 6519「体育館用鋼製床下地構成材」に定められている転倒時の頭部への衝撃を模した「床の硬さ試験」方法を用いており、体育館等の衝突加速度(G)の基準値である100Gを目安としています。

まず、RC造直貼りの床(120‐140G)では体育館等の基準値(100G)を満たさず、衝撃緩和効果の最も高い小規模木造の高齢者施設(60‐90G)と大きな差があることが分かります。

また、RC造でも二重床や根太組工法を採用した床は、小規模木造の高齢者施設に近い値となります。

さらに、RC造直貼り床の表面にクッションフロアなどの柔らかい素材を敷いた場合、一定程度の軽減効果は得られるものの、根太組や二重床工法を採用した施設の床ほどの改善は見られないことがわかります。

以上のことから、木造施設の場合や、RC造でも二重床や根太組とした場合は衝撃緩和効果が高いことが分かります。

9.木の床が歩行感や安全性に与える影響

木造床の「すべり」や「かたさ」に配慮すれば、歩行が安定し疲れにくく、転倒による傷害も少なくなります。

疲れにくく、転倒もしにくい木造床とするためには、木材への塗装や床組、床材に配慮し、最適な「すべり」や「かたさ」にすることが重要です。

★塗装を施さない木質系の床仕上げは、最適な「すべり」になります。

「すべり」は歩行感や運動感に大きな影響を及ぼすだけでなく、すべりが不適当な場合は疲労が増大し足腰部の傷害を発生させることにもなります。

図は、人が歩行した時、運動した時の「すべりやすさ・にくさ」(すべり抵抗)を示したものです。

塗装を施さない木質系の床仕上げは、最適に近い範囲に入ります。

対して、塗装した場合はすべり過ぎる場合があります。

★床の「かたさ」を調整することで、傷害発生率を減少できます。

図は、代表的な中学11校の体育館の床を対象に、生徒の傷害発生率(縦軸)と床のかたさとの関係を示したものです。

図中の+印はフローリング張りの床ですが、適度なかたさを持たせることで傷害発生率が減少することが分かります。

ただし、床に適度なかたさを持たせないと、床がかたすぎてもやわらかすぎても傷害発生率は高くなります。

★木造床の塗装・塗料について

フローリングについては、すべりにくい塗装を施したものが製造されています。

また既存の木造床については、すべりにくくするための塗料やワックスが市販されています。

これらを利用すれば、より歩きやすい木造床にできます。

★架構式あるいは衝撃緩和材が施行された床は、最適なかたさに近づきます。

図は、床の「かたさ」(横軸)と主観評価(縦軸)の関係を示しています。

履物や性別にかかわらず床のかたさには最適値があり、かたすぎてもやわらかすぎても歩行感が悪くなることがわかります。

また、図中の+印は木材を用いた床を示していますが、最適なかたさに近い床や、かたすぎたりやわらかすぎたりする床があります。

たとえば右図のように、架構式あるいは下地に衝撃緩衝材が施工された床は、最適なかたさに近いことが分かっています。

なお、非架構式では、かたすぎる床にならないように留意する必要があります。

★床材を工夫することで、さらに衝撃吸収効果を高めることができます。

表に示した床材を使い、椅子を引きずったり、軽くて硬いものを床に落としたりした場合を想定した実験があります。

その結果、ブナ挽板と衝撃緩衝材を積層複合化して衝撃吸収効果を高めた木質床板は、ブナ挽板に比べて、最大衝撃力が約1/4に抑えられました。

これは、クッションフロアシートやループパイルカーペットと同程度の衝撃吸収効果です。

10.内装の木質化は、睡眠の質や知的生産性に影響します

木材のリラックス効果により、良質な睡眠をもたらし、日中の知的生産性の向上につながることが期待されます。

内装に無垢材を使用していない部屋と比較し、無垢材を使用した部屋では、深睡眠の時間が有意に長く、日中の作業効率も有意に高くなる傾向が確認されています。

★睡眠の質が向上し、知的生産性する傾向が確認されています。

内装の木質化によって深睡眠時間が変わる傾向が確認されました。

木質化率0%の部屋と比較して45%の部屋と100%の部屋は、深睡眠時間が有意に長くなる傾向となりました。(下図左)

また、木質化率の異なる部屋での睡眠後、日中の知的生産性が変わる傾向が確認されました。

木質化率0%ケースと比較して45%のケースと100%ケースではタイピングの作業成績が有意に高い傾向となりました。(下図右)