改めて、命を守るために大切な、耐震基準についてお伝えします。
「旧耐震基準(1950~1981年5月以前)」の住宅のリノベーションをお考えの方に、抑えておいていただきたい内容です。
建築基準法ができる前、1919年(大正8年)に「市街地建築物法」が制定され、その4年後の1923年9月1日に関東大震災が起こり、死者・行方不明者10万人以上といわれる大災害となりました。
その大災害の翌年、市街地建築物法に耐震基準が盛り込まれ、筋交い等の規定が出来ました。
そして、戦後全国各地が戦火に見舞われたこともあり、市街地に限らず全国すべてにおいての基準を設ける必要性から、市街地建築物法に代わり、1950年に「建築基準法」が制定され、それから1981年5月までに決められた耐震基準を旧耐震基準といいます。
その後も、建築基準法は大震災が起こるたびに改正が繰り返されています。
最初の大きな改正となったのは、1978年に発生した宮城県沖地震が契機になっており、その内容は基礎構造が鉄筋コンクリート造であることが規定されたほか、主に木造軸組工法において必要となる壁量の規定が初期の2倍に強化されました。
まずは、耐震基準の流れについてご説明します。
耐震基準
旧耐震基準以前
1950年に建築基準法が制定される前は、明確な耐震基準がありませんでした。
基礎はなく、石敷きに柱が立てられていて、1924年にようやく筋交いなどの耐震規定が新設され、「筋交いは釘で柱などに固定する」とされました。
旧耐震基準
「旧耐震基準」は、10年に一度発生すると考えられる震度5強程度の揺れに対して、家屋が倒壊・崩壊しないと言われる基準で、それ以上に大きな地震の発生はあまり考慮されていませんでしたが、1978年の「宮城県沖地震」で、建物の倒壊やブロック塀の損壊による被害があったことで見直され、1981年6月1日から「新耐震基準」が定められました。
新耐震基準
1981年6月1日以降に完成し引渡された建物ではなく、1981年6月1日以降に確認申請が行われた建物に適用されているということに注意してください。
「新耐震基準」では、震度6強~7程度の揺れでも家屋が倒壊・崩壊しないことを基準としています。
旧耐震に比べて耐力壁の量や倍率、必要な壁の長さ、軸組の種類などが改定され、耐震力が向上しました。
しかし、これは大規模な地震に対して「建物が壊れないこと」を目標としているわけではなく、「建物は壊れても、人の命は救われる」という人命優先の基準であり、逃げる時間を確保する建物という考え方です。
2000年基準
その後、木造住宅においては、2000年にも耐震基準に大きな変化が加えられました。
1995年の阪神淡路大震災の教訓を踏まえ、地盤に応じた基礎・接合金物補強・壁量のバランスをより強化することを義務化しました。
それとほぼ同じタイミングで、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)も施行され、こちらで「耐震等級」という概念が導入され、耐震等級1・2・3の三段階で評価されるようになりました。
等級1は建築基準法程度の耐震性、等級2はその1.25倍の耐震性、等級3は1.5倍以上と定められました。
記憶に新しいところでは、2016年4月14日に発生した熊本地震において、もっとも被害を受けた益城町では、現行建築基準法で建てられた住宅が51棟全壊してしまいました。
さらには築10年未満の耐震等級2で「絶対に倒壊しない」と考えられていた建物が倒壊してしまった事実は建築業界に衝撃をもたらしました。
現行の新築住宅での耐震性能の最高基準は「耐震等級3」で、このレベルまで耐震性能を上げるリノベーションをおすすめします。
旧耐震以前(伝統構法)の基礎補強
伝統構法の建物は、建築当時のままということが少なく、在来工法で増築されていることが多いので、まず古民家鑑定士に診断を依頼し、建物強度が耐震構造か制震構造かを判断する必要があります。
制震構造と判断されれば、平屋建て・二階建ては、伝統再築士の有資格者に設計してもらい、限界耐力計算に基づいた、足固めなどの柱下補強を行うことで基礎をつくる必要がなくなります。
制震構造では、壁やダンパーなどで地震力を吸収するという耐震補強も重要です。
旧耐震基準の基礎補強
リノベーションによって、1981年5月までに確認申請が行われた建物を、耐震等級2や3の性能に向上させることができます。
そのためには、正しい基礎補強も必要になってきます。
基礎補強にはいくつか方法があります。
布基礎の増し打ち
この布基礎の増し打ちという方法が、一番現実的で多く行われている方法です。
施工の手順としては、既存の土台・柱を撤去します。その際、建物が倒壊しないように補強梁を設置して建物を守ります。
その後に、耐力壁直下つまり力がかかる壁の下に、ちゃんと基礎を設けるということが法律で決まっています。
写真の建物は、外周りの基礎には鉄筋が入っていましたが、中は、全部独立基礎になっていました。
どうしても耐力壁の下に基礎が足りませんでしたので、布基礎の増し打ちをさせてもらいました。
外周りの基礎に鉄筋が入っていないことは結構あります。
そういう場合は、既存の外周りの基礎に立ち上げ基礎を打設します。
元々ある基礎の横に、新しい基礎をつくって、既存の基礎にかかる力を新しい基礎で支えるようにするという工事をします。
新しい基礎には当然鉄筋を入れなければなりませんし、既存の基礎との連結も非常に大事です。
既存の基礎と新しい基礎をアンカーボルトでしっかりと留めて、鉄筋を這わせて基礎を打っていきます。
ここで注意していただきたいのが、既存の基礎にアンカーボルトを揉んだときに割れないようにしなければならないということです。
実はこれが結構やっかいで、割れてしまえば元も子もありませんので、細心の注意が必要です。
割れやすい基礎かどうかを診断して、判断することが大事です。
これらをしっかりと確認して、基礎補強のやり方を決めて頂ければと思います。
布基礎の増し打ち後に、新たに土台を敷いていきます。
アラミド繊維シート補強
アラミド繊維はどういうところに使われているかというと、高速道路の支柱の補強などによく使われています。
それほどしっかりとしたものです。
アラミド繊維を無筋の基礎に貼ることによって、鉄筋のかわりになるというものです。
結論から言いますと、コストが高いのでアラミド繊維は最終手段です。
いきなりこの方法を考えると非常に費用がかかりますので、布基礎の増し打ちで済むようであれば、その方がいいと思います。
どのように施工するかというと、建物の基礎にクラックが入っている場合、まずクラックに樹脂を注入します。
下地にエポキシ樹脂で目止めをして、その上にアラミド繊維を貼っていきます。
更にその上にエポキシ樹脂を上塗りして、サンドイッチにします。
そうすると写真のようにきれいな状態の基礎になります。
施工の簡単さ、質、スピード共に優れていますが、まだまだコストが高いです。
布基礎の増し打ちよりも高いので、現場の状況によってどちらの方法を取った方がよいか考えて頂ければと思います。
布基礎の増し打ちも、既存の基礎にアンカーボルトを揉んで鉄筋を這わせていくのですが、このアンカーボルトが打てないくらい弱い基礎だったりすると、このアラミド繊維しかありません。
ベタ基礎への変更
現在の無筋基礎に対して、立ち上がり部分を抱き合わせる形で補強するだけでなく、底面のベース部分にも配筋をして、底面と立ち上がりを一体化させます。
このように既存の建物の状況により、また建物自体の基礎の状態によって補強に対する方法も変わってきます。
戸建のリノベーションの際は、構造をどこまで補強するのか、もちろん費用との兼ね合いもありますが、正しい基礎補強の実績を持つ会社で、なおかつ木造の改築技術を持つ会社に相談して、どの方法で補強すればいいかをしっかりと判断して採用するといいと思います。