木材あるいは木造建築物には、室内の湿度を制御する、空気を浄化するなど、人が過ごしやすい環境づくりに効果があることが、化学的に明らかになってきました。
11.木材は、人がいる居住空間内で、湿度を調節してくれます
内装に木材を用いることで空間内の湿度をある程度一定に保った、過ごしやすい環境づくりが可能です。
室内の壁、床、天井に無垢材などの木材を内装に用いると、木材の吸放湿作用が室内空間の湿度をある程度一定に保ちます。
それによって、過ごしやすい環境づくりが可能になります。
また、湿度を保つことでハウスダストの原因となるダニや最近の生存がしにくい環境にもなります。
★人が寝ている室内で木材の吸放湿作用により湿度の上昇が抑えられます。
内装に木の無垢材を用いた部屋と、木目調のビニルクロスを用いた部屋でス民事における室内の湿度を測定すると、季節に関わらず、無垢材の部屋の方が、ビニルクロスを貼った部屋より湿度が低くなります。(図)
通常、寝ている状態では人の呼気や発汗などにより時間と共に湿度が上昇しますが、無垢材が吸湿作用を発揮し、その上昇を抑制したと考えられます。
ビニルクロスを貼った内装では、水分をあまり吸収しない素材が表面に露出しているため、容易に湿度が上昇してしまいます。
★木材の吸放湿作用とは・・・
木は切られてしまえばすべの生命活動は停止しますが、周囲の温度や湿度の変化に合わせて空気中の水分を放出したり吸収したりするため、俗に〝呼吸している“と表現されることがあります。
切られて木材に加工されても、この吸放湿作用は続きます。
実験により、外気の湿度変化と比較して、木材内装の部屋ではあまり湿度が変化していないのが分かっています。
これは〝木材の吸放湿作用″が働いているからで、木材は室内が乾燥している状態では木の中に含まれている水分を放出して、湿度を上げようとします。
反対に、湿気が多い状態では余分な湿気を吸収しようとするのです。
また、木材は大気に比べて湿気を蓄える能力が著しく大きい特質があります。
そのため、木材中からの水分の出入りだけで、室内の湿度を十分にコントロールして安定した状態に保つことができるのです。
★木材の含水率と吸放湿作用の関係
木材の含水率は、含まれる水の重さを乾燥しきった木材の重さで割った数値で表します。
木材を大気中に放置すると、含水率は11~17%まで下がり安定した値を示し、安定している状態(平衡含水率といいます)になって、木材は初めて吸放湿作用を発揮します。
未乾燥材では吸放湿作用は期待できないということです。
12.木材は、消臭や抗菌に役立ちます
木材に含まれる様々な成分が、悪臭物質の吸着、大気汚染物質の除去、および抗菌の効果をもたらします。
木材は、アンモニアなどの悪臭成分を吸着することによる消臭効果を有します。
また、木材から調整された精油には、二酸化窒素などの大気汚染物質の除去作用もあります。
精油などには低分子化合物が含まれており、それにより抗菌効果がもたらされます。
★木材には悪臭や大気汚染物質を除去する空気浄化作用が確認されています。
精油をとった後の枝葉や木材チップを乾燥させ、悪臭に暴露した試験において、アンモニアの濃度を急激に低下させました。(下図)
活性炭は悪臭をよく吸着することが知られていますが、枝葉や木材チップも、同等の消臭効果をもつことが示されています。
スギ(特に樹皮)に多く含まれる、縮合型タンニンがアンモニア等を吸着することが明らかになっています。
また、トドマツの精油における、二酸化窒素等の大気汚染物質の除去効果が示されています。(下図)
泰麒を混和すると、トドマツの精油は120分後に二酸化窒素が100%除去されました。
ヒノキやスギの精油も、120分後には約50%の除去率を示しました。
これらには精油に含まれるテルペン類が関与しています。
★樹木の精油などによる抗菌効果が報告されています。
スギの精油や抽出物には、黄色ブドウ球菌に対し強い抗菌活性が報告されています。(下図)
精油では、主にテルペン類などの低沸点化合物によって、菌の生育抑制または殺菌効果が発揮されたと考えられます。
また、残渣のメタノール抽出物では、精油には抽出されにくい一部のジテルペン類やポリフェノールなどの比較的高沸点の化合物によって、同様の効果が発揮されたと考えられます。
また、これとは別に、ニオイヒバ、ヒノキ、チャボヒバ、ヒノキアスナロ、ツガ、ストローブマツの精油は、カビの生育を阻害したことが報告されています。
★タンニンとは
植物の葉などに含まれるポリフェノールで、たんぱく質に結合する収れん性のある物質の総称。
加水分解性のあるタンニンと加水分解されない縮合タンニンに分けられます。
木材では、縮合性タンニンが樹皮に多く含まれています。
縮合性タンニンの種類は、樹種によって異なっています。
★木材の低分子化合物―テルペン系化合物
木材の匂い成分や精油の主要な化合物群をいい、モノテルペン(炭素数10個)、セスキテルペン(炭素数15個)、ジテルペン(炭素数20個)などに分類されます。
一般に、炭素数が増えるほど揮発性が低くなります。
モノテルペンの多くは、木材の代表的な匂い成分でもあります。
13.木材に含まれる揮発性成分(匂い成分)の特性
木材の含有成分、特に揮発性成分の組成と量は樹種により違います。
また、揮発量は製材過程の乾燥方法や季節により変化します。
木材の含有成分、特に揮発性成分に関する情報は、木材の耐久性や匂いなどの特性を評価する指針となっています。
たとえば、乾燥材の需要増加に伴い、乾燥方法や乾燥材の特性について様々な検討が行われた結果、高温乾燥材は天然乾燥材に比べて含有成分が減少することが確認されています。
また、木材の揮発性成分の発散量は温度によって変化し、夏期の方が冬期に比べて高くなることが分かっています。
★乾燥処理により木材に含まれる成分は変化します。
乾燥温度が最高120℃となる高温乾燥により、スギ心材に含まれるテルペン類は、天然乾燥に比べ減少すること、特にセスキテルペン類のエピクベポールとクベポールは消失してしまうことが報告されています。
一方で、高温乾燥後のテルペン類の含有量は、赤心材では材の端部が中央部よりも多く、黒心材では材の中央部が端部よりも多かったとされています。
木材の含有成分は、部位や心材色によって含有量が異なるため、こうした様々な要因を考慮した上で、さらに乾燥処理による影響を評価することが重要だと考えられます。
★季節(温度変化)により木材の揮発性成分の発散量は変化します。
スギ材を内装に用いた室内における木材の揮発性成分(匂い成分)の濃度は、温度によって変化し、夏期の方が冬期に比べて高くなります。(図)
夏期は温度が高く、低温である冬期に対し、物質の蒸気圧が上昇するため、夏期の揮発量が高くなると考えられます。
したがって、木材を内装材として使用した室内空間では、季節(温度)変化により感じる匂いの強さが変化すると考えられます。
★木材の揮発性成分の樹種による違い
人は、木材に含有される成分のうち揮発する成分を匂いとして感じています。
この揮発性成分の組成およびその量比は樹種により異なり、この成分の差異が、スギ、ヒノキやマツといった樹種の匂いの特性となります。
さらに成分が異なるため、抗菌や防虫、耐久性の効果は、樹種により異なります。
★時間経過による木材揮発性成分の室内犬出量の変化
木材の匂い成分は住宅の築年数が経てもある程度は持続すると言われています。
スギ、ヒノキを内装材として使用した室内空間で日常的な使用状態で4年間が経過しても、室内空気中にには木材由来のテルペン系化合物が数多く検出されることが報告されています。
室内の木材由来の揮発性成分を複数年にわたり分析した報告例は少ないため、より長期的な分析や揮発性成分の組成の変化といった詳細な計測が必要となっています。
14.木材を使うことで、ダニを「防除」できます。
居住空間で木材を使うことは、チリダニ類の「防除」に有効な手段のひとつです。
木材の利用によるダニの防除効果のひとつは、木の床による防除効果(物理的にダニの住処をなくす)であり、もうひとつは、木材の匂い成分による防除効果(科学的な効果)です。
★床材を木の床に改装した結果、ダニ数が減少したとの報告があります。
集合住宅のリビングルームの床を畳あるいはカーペットから木の床に改装し、改装前6ヶ月と改装後11ヶ月の各月毎に各部屋の床上およびカーペット、ソファー、ベッドのダニ数を測定しました。
その結果、8月と9月の家の中の1平方メートルあたりのダニ数の平均は104匹から23匹に減少したという研究結果が得られています。
★木材の匂い成分により、ダニの行動が抑制されたとの報告があります。
ダニがチップに直接触れることがないように通気穴のある容器に入れて、住宅や家具などによく用いられている木材(ヒノキ、ヒバ、スギ、ミズナラ、ケヤキ、クスノキ)チップの上に設置しました。
その後、温度25℃、相対湿度85%の環境で、72時間後まで動いているダニ数を数え、割合を算出しました。
その結果、チップから発散される匂い成分には、ヤケヒョウダニの行動を抑制する効果があるという研究結果が得られています。
★チリダニ類とアレルギー性疾患の因果関係
住宅の中には、通常、ヤケヒョウダニなどのチリダニ類が生息し、それらのフンや死骸も存在します。
それらは、気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患を引き起こす原因のひとつです。
ダニが原因となるアレルギー性疾患を防ぐためには、家の中のダニ数を減少させ、ダニと背食する機会を減らすことが重要です。
★木材から発散される匂い成分
木材には数パーセントの精油が含まれており、これらの物質が木材に樹種固有の匂いを与えています。
精油の含有量は樹種によって異なります。
発散される匂いの成分は主としてテルペン類で、その組成も樹種によって異なります。
★木材を利用したダニ防除の今後の研究課題
畳の中のチリダニ類を部所することを目的として、ヒバ単板、ヒノキ単板を挟み込んだ畳や、ヒノキ材スライス片を原料とした畳を用いた研究もおこなわれています。
木材の匂い成分を実際の生活環境の中でダニの防除に利用するためには、防除効果の持続性を高めるための技術開発や、実際の利用を想定した環境下での実験を行うことが重要です。