断熱性能が同じなのに、体感(心地よさ)に差がでるのはなぜでしょうか。
それは、“蓄熱”できる量に違いがあるからです。
お問い合わせ
家づくりに関するお問い合わせ、
設計や資金計画についてのご相談は、
何でもお気軽にお寄せください。
蓄熱とは?
蓄熱する熱量とは、熱を蓄えておける量であり、高いほどたくさん熱量をため込んでおくことができ、ため込む量が多いほど、断熱材の内側と外側での熱の移動を穏やかにします。
そのため冬の夜に暖房を切っても熱が逃げにくく、朝まで暖かいということになるのです。
ただし、夏季は屋根や壁が長時間熱を受けてしまうと蓄熱し、冷めにくくなってしまいますので、遮熱シートなどで“遮熱”することも必要です。
弊社では自然素材を使用した快適な住空間の提供を推奨していますが、あまり知られていないのが無垢材をはじめとした自然素材の蓄熱性能についてです。
数えきれないほど多くの戸建てリノベーションをして参りましたが、断熱改修の際に、『床暖房の設置』をご要望される方がいらっしゃいます。
しっかりとした床断熱をすることが前提となりますが、仕上げ材に無垢の厚板を床、天井、壁には漆喰で施工されるお施主様の感想を伺うと、床暖房がなくても冬が暖かいと皆様口をそろえておっしゃいます。
これは木が本来持つ蓄熱性あるからです。
ここでは、床暖房のいらない空間はどのようにしてできるのか?どのような素材を使用し、どのような断熱が必要なのか、解説していきたいと思います。
無垢材の密度(比重)に注目する
この図を見てわかることは、木材の熱伝導率の低さです。熱伝導率の数値が小さいほど熱が伝わりにくいことを意味しています。
例えば、スギの熱伝導率は0.087 W/(m・k )で、同じく1.0W/(m・k )のコンクリートの約12分の1であり、それだけ熱を伝えにくいということになります。
鉄と比較すると300倍以上違います。木は熱を伝えにくいということがわかりますね。床を素足で歩く時、タイルだったりすると、ヒヤっと感じると思います。
逆に、無垢フローリングなど床を素足で歩くと暖かいことがわかります。
これらは「熱伝導率」が関係しているのです。
そもそも、なぜ木材は熱伝導率が低いのでしょう。
物質のあたたかさは熱伝導率に関係し、木材の内部に含まれる空気の量、すなわち比重の違いによって熱伝導率も異なります。
比重は、木の繊維と空気の比率を表す数値です。
上の図のとおりヒノキの比重は0.41、スギの比重は0.38、桐の比重は0.29で、桐が一番が軽く、それだけ空気を多く含んでいるため熱伝導率が低く、あたたかく感じるわけです。
金属などと比べて無垢の木はほとんど熱を伝えないことがお分かりいただけたのではないでしょうか?
スギについて

スギを顕微鏡で見た画像
スギを電子顕微鏡で見てみると、 段ボールのように空気層がとても大きいのが見てとれます。
杉の優れた点の多くがこのハニカム構造に支えられています。この隙間は空気です。
このようにスギの細胞の内側は、最も熱を伝えにくい空気が詰まっているおかげで、夏は冷房効果、冬場は暖房効果を高めてくれます。
そのため木材の熱伝導率は低いのです。
気温の低い冬場には、触れても肌から熱が奪われず、自分のぬくもりを実感できるため、心地よいと感じるのです。
「木」の種類によっても、熱伝導率が異なるため、あたたかさも異なります。
例えば、針葉樹のスギと広葉樹のカリンを、実際に触って比べてみると、断然スギの方があたたかく感じます。
断熱と快適性を重要視すると、最も大切な事は、木の比重だということはおわかりいただけたのではないでしょうか?
言い方を変えると、材質が緻密な木は比重が高く、材質に隙間が多い(空気が多い)木は比重が低いとなります。
この比重が低い=空気が多い ことが蓄熱性を示す一つの指標になって参ります。
では無垢材であれば何でも良いのかと言われると、無垢材の中でも様々な樹種があり比重は異なります。
広葉樹の場合は、比重が0.6〜0.7ぐらいのものが標準的といえます。
針葉樹は比重が少なく、杉は0.38、ヒノキは0.41です。
針葉樹は、標準的な広葉樹に比べ、軽くて柔らかい材質ということです。
断熱材としての効果を期待するのであれば、比重の少ない樹種を選定するのが良いことがお分かりいただけるでしょう。
しかし、注意が必要なのは熱伝導率の優れた木材の特性も、表面をウレタン塗装などで完全にコーティングしてしまうと、塗装の被膜によって熱く感じたり冷たく感じたりします。メンテナンスの面では有利かも知れませんが、これではせっかくの木の温かみが台無しです。
最近では無垢材や自然素材が見直されていますが、これらを使う場合は塗装の有無、各種塗料の性質についても、よく調べておくとよいでしょう。
床暖房不要の床断熱方法とは
断熱仕様で建物を検討する際に、断熱材としてのスギの魅力はお伝えしました。
しかし、そのまま杉板を張れば床暖房不要の快適な空間になるのか?と言われれば答えはNO!です。
床下の断熱材が床下空間の冷気をシャットアウトすることが前提となるわけです。
冬場にいくらエアコンの暖かい空気を吸い、スギが蓄熱しても、床下の寒気によってスギ板が冷やされてしまっては、その断熱性能を十分に発揮できません。
ここでは、杉板の蓄熱性を最大限生かす床断熱について解説します。
左が一般的な床断熱材として使用されるウレタン35㎜+捨て貼り12㎜+新建材カラーフローリング12㎜です。
右が弊社が標準としているミラネクスト75㎜[ 特寸]+防湿シート+捨て貼り12㎜+杉板30㎜です。
つまり、しっかりとした床断熱工事を前提として、比重の軽い木材(主に針葉樹)を採用することで床暖房不要の空間となるのです。
断熱と蓄熱について(床だけではなく断熱材の選定も慎重に)
ここまでは素材に含まれる空気の量(比重)という指標をみて無垢材の特性を見てきました。
ここではもう一つの指標となる蓄熱(容積比熱)も見ていきたいと思います。
床だけを比重の低い空気量の多い素材にすれば部屋全体が快適になるのか?といわれればそれは違います。
環境温度という指標があり、人間が最も快適な環境温度は23℃と言われております。
床と壁の温度を足して2で割った温度がその環境の温度になります。 例えば、冬に壁の温度が26℃で、壁が20℃の場合、環境温度は23℃になり心地よい温度という考え方です。
環境温度=(床温度+壁温度)÷2
つまり床だけを26℃にしても壁の温度が10℃では環境温度は18℃となってしまいますので、寒い空間ということになります。
環境温度を快適な状態にするために必要なのは、理屈から考えると壁の温度はどのようにしたら高くなるのか?
ここで最後に押さえたい数値が『比熱』になります。
断熱材の選定の際に、一般的に使用されるグラスウールとセルロースファイバーを比較してみましょう。
両者の熱伝導率はそれぞれ、0.044と0.038となりそこまで差がない事が見てわかります。
つまり断熱性能だけで考えてしまうと両者の性能はそこまで変わらないという結論になります。
断熱というとどの素材も熱伝導率で話をすることが多く、この比熱という指標を軽視しがちです。
しかし、容積比熱(温まりやすさ)をみてみてください。それぞれ13.4と103.4となり、約7.7倍も蓄熱性が違うことがお分かりいただけるのではないでしょうか?
杉の比熱をみてみると783となり蓄熱性が高いこともここで理解できます。
床・壁・天井の温度を実測
蓄熱仕様が完成したところで、温度計と赤外線による温度計を使用し、どの程度の蓄熱性があるのかをテストしましたので見ていきましょう。
テストは外気温15℃の日に、室内のエアコンの温度設定を25℃設定(蓄熱性を検証するためにあえて高い温度設定としました)して、天井・壁・床を測定しました。
まずは天井です。天井を赤外線温度計で測定すると、30.8℃となりエアコン設定よりも天井温度が5℃以上高い結果となりました。
壁は、30℃となりました。
肝心な問題の床はどうだったのか?
こちらは28.8℃となりました。
結果として、スリッパなしで、素足で温かさや心地よさを体感できる空間となりました。
また全体として、天井、壁、床全体が蓄熱性の高い素材を使用したためエアコン効率が劇的に向上し、電気代の節約にも寄与することを実感することができました。
環境温度の話をしましたが、床だけでなく壁の温度も蓄熱性の高い素材を選定することが、空間全体の快適性が高まるということをご理解いただけたのではないでしょうか?
床や壁が熱を吸って蓄熱しないような材料の場合、暖房を26℃設定にして暖めても、壁の温度が10℃であれば、環境の温度としては18℃になるので、冬寒い空間ということになります。
やはり周りの内装材が熱を吸って蓄熱してくれるということが、居心地の良さに繋がりますので、冬でも床暖房がなくても快適に過ごすことができるということです。 このようなことからも、内装に蓄熱性の高い素材を使うということを考えていただくと良いと思います。
また、自然素材などであれば、ホルムアルデヒドを放散しないので、法律上義務付けられている24時間換気にも必要以上に頼らない、快適な室内空間になると思います。
これらのことを考えて内装材を選んで頂ければと思います。 今、子供のアレルギーは深刻な問題になっていますし、健康を保つための医療費も大きな問題になっていることを考えると、やはり体に良い素材で家づくりをするというのは、賢い選択になると思います。